
「正解のない世界」と向き合う
- 能化 正樹
- NOKE Masaki
- 国際地域マネジメント研究科 特命教授(国際関係論、国際政治学)
Profile
兵庫県出身。1982年、東京大学法学部卒業。外務省に入省。本省やフランス、ジブチなど複数の国の在外公館での勤務を経て、2015年、外務省領事局長。2017年、内閣府国際平和協力本部事務局長。2018年、駐エジプト特命全権大使。2021年、駐スウェーデン特命全権大使。2025年から現職。
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外交の“現場” が教えてくれた
最近まで現役の外交官でした。外交官になりたての1980年代、冷戦末期、ソ連のゴルバチョフ書記長がフランスに訪れて臨んだ記者会見に立ち合いました。崩壊に向かっていた東側の混乱、その影響を懸念する西側諸国―緊迫した歴史の転換をまさに現場で実感しました。アフリカのジブチでは、難民の対応に当たり、生まれ育った母国の紛争を逃れてきた彼らから直に話を聞き、目に焼きついたという情景や悲痛な想いに圧倒されました。
外務省本庁で邦人保護を取り仕切る部署の責任者だった2016年には、バングラデシュ?ダッカ襲撃テロが起きました。情報が錯綜する中、犠牲になった日本人のご遺族たちが激しい報道取材に巻き込まれました。プライバシーを守ることと、正しい情報発信を目指すこととのはざまで苦慮した、事件の現地とはまた別の意味の“現場” を体験しました。
このように私は常に“現場に居た” と思っています。外交も、国際政治も、そこに生きる人の立場も感情もさまざまである以上、唯一の正解は存在しない。現場で身をもって得た真実です。だからこそ「何が望ましいか」を考え続け、行動する姿勢が求められるのだと思います。

在スウェーデン日本国大使としての離任に際し、国王陛下に拝謁
プレイヤーからオブザーバーへ
私はこれまで外国と対峙して、我が国の国益を担うプレイヤーでした。しかし大学では、客観的に国際関係を見つめることになり、いわばオブザーバーとなる訳です。外交官としての視点と、これから取り組む研究者としての視点、その両方を踏まえながら、今後はじっくりと国際関係に関わり続けていきたい。とりわけ現場感覚を持っている、スウェーデンや北欧から見た安全保障政策や中東?アフリカ地域の紛争、そして国際平和協力の在り方について学術的に深めていきたいと考えています。
また、国際関係という複雑で常に変化する世界を学生たちが理解する「入口」をつくりたいと考えています。国際法や外交、政治理論や歴史など、さまざまな視点から世界を見ることで、自分自身と国際社会との接点に気づき、考え、関わる力を育んでもらえたらと願っています。
古代エジプトのラムセス2世と小アジア半島に興った強国?ヒッタイトとの間で結ばれた世界最古の平和条約。エジプトのカルナック神殿に刻まれたそのヒエログリフを自分なりに読み解いています。
